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高松高等裁判所 昭和24年(控)351号 判決

本籍並に住居

高知県土佐郡宇治村枝川二〇二四番地

農機具製造販売業

池沢重成

当五十二年

右所得税法違反被告事件につき昭和二十四年二月十五日高知地方裁判所が言渡した有罪判決に対し被告人は控訴したから当裁判所は検事西本定義立会い審理して次の様に判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

被告人弁護人高橋茂の控訴の趣意

第一点は原判決には事実の誤認がある。原判示第二は被告人が各前月末日の給與に際し徴收した所得税を納付しなかつた事実を認定摘示しているけれども被告人は所得税を徴收納付し得べくして納付しなかつたのではなく経済上の行詰りから手持資金なく徴收納付し得なかつたのであり判示の様に現実に徴收した所得税金がありながらそれを納付しなかつたのではない。

同第二点は原判決には法令の適用の誤がある。所得税法第六十九條は給與所得税徴收義務者はその徴收納付につき詐欺不正の事実の有無に拘らず違反すれば処罰されるがしかし法は不能を責めるものではない。従つて徴收可能で徴收した税金を納付しない場合に処罰されるが予期に反して徴收し納付すべき資金がない場合の如く何等違法性のない場合は右規定の処罰対象外であり前記原判示第二事実に対し所得税法第六十九條第二項を適用処断したのは適用すべからざる法條を適用した違法があるというのである。しかし原判示第二事実は原判決の証拠によりこれを認定するに十分であつて記録を精査しても所論のような事実誤認はない。従つてこれに原判決挙示の法條を適用処断したのは当然であつて法令の適用を誤つた違法も存しない。論旨は前記の証拠及び法令に独自の解釈を加え、よつて原判決に事実誤認、擬律錯誤の不法があると主張するもので採用できない。

同第三点は原判決は刑の量定が不当に重い。税法の不知は量刑上考慮されてよい問題であるが被告人は税率すらも知らなかつたものである。最近の社会経済事情から納税の重要なることは何人も知つているが過去の被告人の本件違反に対し更に重刑を科するのは刑罰法令不遡及の原則の精神にも反する。被告人は負債数十万円あり納税に日夜苦悩し本件所得税についても去る三月七日及び十五日の両度に合計壱万九千円を納税し更に完納を期している。従つて被告人に対しては軽い罰金刑を科するに止めるべきで、懲役刑も免れずとせばその執行を猶予せらるべきである。これに懲役二月及び罰金合計十三万八千円を言渡した原判決は量刑甚しく重きに失するというのであるが、記録を調査し犯情を考えるに原判決の刑の量定が不当であると認めるべき事由がないから本論旨もまた理由がない。よつて刑事訴訟法第三百九十六條に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 岡村靖 判事 三野盛一 判事 橫江文幹)

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